私はよく雲を撮影します。

雲は「言ってしまえば」ただの水蒸気が低温によって形作られているに他ならない。
しかし、「言ってしまえば」目には見えない水蒸気が空気や雨になる過程の中、
視覚で確認できるという、究極に美しく奇跡的なことであり、まさに歓喜するべき
被写体です。私はそんなものの撮影をしているつもりです。

私の作品にモノクロームが多いのは、その被写体の最も美しいディティールを
浮き彫りにし、印象として記憶に残るという私の一手法で、陰影の美を追求して
いる訳ではありません。

何万年もの間動かず風化してゆく鉱物、発芽を繰り返し種を守り続ける木々。
決して人間には悟れないほどのディティールが地球には存在する。
しかし、それはただそこに存在しているに過ぎず、何のために種を存続させて
いるのかすら我々生命には理解できないのです。
現在、エントロピー増大の法則が事実である以上、この星や景色はいずれ
風化してなくなることが答えです。ならば、今目の前にあるその景色の美を
見つめることが私の生であると気づきました。

その足掻きが「写真を撮る」という手法を選択させてくれました。
ただ美しいと感じることを頼りに。

地球のどこかの記憶の記録。それを誰かと共有できればありがたいと思います。

太田 紳